君は後輩たちの希望

麻布学院では、勉強と同じくらい大切にしていることがあります。

それは、一人一人と真剣に話をする時間を重視すること。

内容は、勉強、私生活、将来、学校生活など多岐にわたります。

 

ある女子生徒がいました。

性格もよく、明るく、家の手伝いも、幼い兄弟のお世話も嫌がらず、本当に良い子でした。

しかし、学校での彼女の評価は低い。

友人からも、下に見られる部分が多く、先生からの評価も、低いのです。

 

その理由は、5教科の合計点が、100点に満たないこと。

彼女自身も、その状態に甘んじて、自分を下に見せることによって、いじめや中傷を避けるようになっていました。

第三者から見ると、いじめに思えることも、彼女は笑ってすませてしまう。

学校の先生たちも、彼女の明るい笑顔に騙されてしまう。

誰も、彼女の笑顔の影にある、暗い部分に気づいていませんでした。

 

私は、彼女の本心を引き出すため、何度も何度も話をしました。

「それは笑うことじゃない。」

「人に馬鹿にされて、笑ってはいけない。」

「嫌な事は、嫌だと言わなければいけない。」

 

そして、やっと彼女の口から出た言葉が

「私は頭が悪いから、馬鹿にされても何も言えない。笑われても、誰かと一緒にいれば、いじめられない。笑っていれば、悪口も言われない。」

本音が出た後、彼女は、塾で号泣しました。

 

私はその日から、彼女を真剣に怒り、成績を上げるため本気で向き合いました。

そのたびに話をし、世界や社会、未来や過去、あらゆることを話ました。

そして、彼女と私が出した結論。

「他人に頼らず、他人に馬鹿にされず、他人の役に立てる人間になろう。」

 

それから彼女は、真剣に勉強をしました。

それこそ数学は、掛け算や割り算、分数や小数から。

 

受験まで時間が足らず、公立高校は不合格となり、彼女は私立高校へと進みました。

 

しかし、彼女は高校3年間、私との約束を違えることなく、真面目に勉強に励み、ついに誰からも馬鹿にされず、人の役にたてる人間になれました。

彼女が選んだ職業

「看護師」

中学生の時に、私と彼女の間で約束した未来。

 

彼女が看護師になったという報を受け、私自身も誰かの役にたてたのだと救われた思いになりました。

彼女と同じように、成績が低く自信がないことで、どんな時も、誰にでも、無理をして笑顔を作ってしまう子は毎年います。

そんな時、私は必ず彼女の話をします。

 

次に彼女に会う機会があれば、伝えたい言葉があります。

「君は、塾の後輩を救う存在になっているんだよ」